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悩みの現場
「『深層レポート』の時間です。 本日は、現場からの中継を交えてお送りします。現場さん、悩みの現場さん?」
「はい、こちら現場です。人気スポット・悩みの現場から中継でお送りします。
おおっと、さっそく疲れ切った女性が、肩を落とし、力なく登場しました。父親の介護が手にあまり、途方に暮れているようです。
おおっと、次に現れたのは目に涙をためた女性です。どうやら夫の浮気が発覚した模様です。怒りと悲しみと悔恨の渦に飲み込まれそうになっています。
今度は、ため息を連発している男性です。借金を返せる見込みが立たないようです。心配と不安、そして恐怖が忍び寄っています」
「この悩みの現場には、次々に多くの人々がやってきます。いったん離れても、再び訪れる人があとを絶たないようです。何がそんなに人々を惹き付けるのか、人気スポットの謎に迫りたいと思います。ではいったん、スタジオにマイクをお返しします」
「はい、現場からの中継ありがとうございました。 いやあ、人間、悩みは尽きないようですね。いくつになっても悩みは身近なようです。では、ここでコマーシャルです」
「再び悩みの現場です。この人気スポットを訪れていましたAさんに来て頂きました。さっそくお話を伺ってみたいと思います」
「Aさんは、よくこちらにいらっしゃるのでしょうか?」
「そうですね。会社での人間関係に悩んでいまして、最近は毎日訪れているかもしれません」
「訪れていないときは、悩みのことは忘れているのでしょうか?」
「そうだと思います。ただ、会社にいる時はもちろんですが、帰宅してからも思い出すことが多く、その度にここを訪れています」
「ここがそれほど人気なのは、なぜだとお思いでしょうか?」
「???」
「いや、あの、大勢の方がここを訪れていらっしゃいますが、その人気の秘密に迫る番組なので、お聞きする次第です。皆さん、それほどまでに悩むことがお好きなのでしょうか?」
「からかわないでください。悩むことが好きな人間なんていないでしょ。悩まざるをえないから悩んでいるんです」
「Aさんの仰ることはとても斬新ですね。面白いです。スタジオさん、Aさんにスタジオ出演をして頂きたいのですが、いかがでしょうか?」
「こちらスタジオです。もちろんです。Aさん、ぜひスタジオへお越しください!」
「Aさんにお越し頂きました。お忙しいところ、ありがとうございます」
「よくわかりませんが、よろしくお願いします」
「悩みの現場からスタジオにいらしていかがですか? ここでは悩むことはないわけですよね?」
「そうですね。悩んでいる時は現場にいますから」
「現場を離れ、スタジオにいると、ご自分の悩みというのはどのように感じられるのでしょうか? 中継のカメラが、いまAさんの悩みを映していますが」
「………。外から自分の悩みを見るということがなかったのですが、こうして眺めてみると、なんだか不思議ですね。今までは悩みから離れることができないと思っていたのに、いざ離れてみると、過去の1ページのようで、少しセピア色がかって見えます」
「お気持ちはいかがでしょうか?」
「そうですね。明日も会社に行かなければならないわけですが、今の気分は、悩みを見下ろしている感じとでもいいましょうか、いくつもある人生スポットのひとつというんでしょうか。それはそれとして、それだけじゃないという感じです」
以下、ナレーション…
「スタジオに行くことで、悩みの現場からいったん離れることができたAさん。
悩みを生んでいる会社での人間関係は変らなくても、悩みの現場から離れることで、これまでとは違った視点が生まれてきたようです。
しかし、それにしても、悩みの現場がこんなにも人気なのはなぜなのでしょう? そして、どうすれば、より早くこの現場から離れることができるのでしょうか?
それは次回にお届けします。次回も『深層レポート』をお見逃しなく!」
 

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