悩みの昼
「今日は午後から、気の重い企画会議が開かれます。
午前中は、その会議の資料作りで忙殺されてしまいました。
お昼休もコンビニのおにぎり1個。
とにかく口うるさい上司が出席する会議なので、資料の作成にも細心の注意を払わなければなりません。どの角度から質問が飛んでくるかわかりませんし、どんな突飛な 提案があるかも予想できません。
自分だけでなく、周りの同僚たちもピリピリしているのが伝わってきます。
いよいよ会議のスタートです。
自分のパートの説明が終わり、ホッと一息ついたところで、案の定というか、なんで? というか、くだんの上司が口を開きました。
『で、きみはそれをちゃんと検証したの? 自分がそう思っているだけじゃ、 説得力がないでしょ。メインターゲットは、君とは年齢も、置かれている環境も 違うんだよ』
自分がつい思い付きで言ってしまったことを、見事に突かれてしまいました。
あれだけ準備してたのに、その部分には何も言わず、こんな思い付きの部分だけ 指摘してくるなんて!
なんか納得できない気持ちでいっぱいです。 ある程度は覚悟していたけれど、
指摘されるとやはり、みぞおちのあたりに重いモヤモヤが居座ってしまいました。
しばらく悶々としそうです」
さて、ではなぜ、この人は重い気持ちになってしまったのでしょうか?
発言に穴があったことで、自分への評価が下がったからでしょうか?
時間をかけた準備が報われなかったからでしょうか?
軽はずみな自分、ふがいない自分が嫌になったのでしょうか?
あまりにも当然のことを言われたからでしょうか?
たぶん、その全部です。 でも、なぜそれで落ち込む必要があるのでしょう?
思い付きで言ったことが、上司に注意されたのは事実です。
しかしそれが、自分への評価を下げることになるかどうかはわかりません。
それ以外の部分は何も指摘されなかったわけですから、むしろ評価が上がっている可能性 もあります。 また、仮に下がったとしても、すぐに検証にとりかかれば、逆転のチャンスは十分にあります。
時間をかけた準備も、上司の質問を想像しながら、いろんな角度から検討することで、 この企画に対する理解がかなり深まったはずです。
また、準備に忙殺されている間は、余計なことを考えずにそのテーマに没頭できたわけ ですから、幸福な時間を過ごせたのではないでしょうか?
軽はずみな自分も、ふがいない自分も、これからステップアップするためのバネにすれば いいだけです。
そしてそもそも、この上司は理不尽なことを言っているわけではありません。
個人の思い付きも大切ではありますが、それをデータで裏付ける作業も必要です。
このように考えてくると、この人が悩む理由はどこにもないことがわかります。
準備も発言も上司の指摘も、この人の成長のためには必要なことです。
もしかしたら、この人は成長したくないのでしょうか? 仕事人としても人間としても、 今のままがいいと思っているのでしょうか?
いったいこの人は、どんな人になりたいのでしょう…。

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